袴田事件の再審開始決定に関する声明

 私たちの仲間である袴田巌さんが放火・強盗殺人犯の濡れ衣を着せられた袴田事件の第2次再審請求に対して、東京高裁 第2刑事部・大善文男裁判長は再審開始を決定しました。当たり前のこととはいえ、執拗な検察の妨害に鉄槌を与えた決定を、袴田さん他、冤罪犠牲者の仲間と喜びを共にしたいと思います。

2014年3月27日に再審開始を決定した静岡地裁の村山浩昭裁判長は、決定書で証拠のねつ造まで指摘し「これ以上拘置することは、耐えがたいほど正義に反する」とまで書いています。そして袴田さんの仮釈放を決めました。

しかし静岡地検が即時抗告をし、2018年6月11日、あろうことか東京高裁 第8刑事部の大島隆明裁判長が再審開始決定を取り消しました。4年半もの月日を消費して、再審の決め手となった本田克也・筑波大教授のDNA鑑定を潰すためだけに書かれた稚拙な決定書は、裁判の意義を貶めるものでしかありません。

味噌タンクから発見された5点の衣類の血液の色について、審理不足として、2020年12月22日、最高裁 第三小法廷が東京高裁の決定を取り消し、差戻しを決定しました。妥当な決定とはいえ、差戻しを支持したのは林道晴裁判長、戸倉三郎裁判官、宮崎裕子裁判官はいたずらに時間を引き延ばしました。

 それに反し、林景一裁判官、宇賀克也裁判官の、最高裁で再審開始を決めるべきとした意見は評価に値します。

差戻し審で、この期に及んでの検察の執拗な再審妨害は常軌を逸していました。血液の赤みを残すために、たった3キロの味噌にわざわざ脱酸素剤を入れた真空パック実験など、怒りを通り越して、もはや失笑ものです。そもそも1年以上味噌に漬かった衣類に赤みなど残るはずもない、子供でもわかるようなことを、わざわざ御用鑑定人を投入して、難解なロジックでごまかした鑑定など時間のムダでしかありません。さらに許されないのは袴田さんの再収監まで主張した点です。もはや検察という組織は犯罪者集団でしかありません。

この国には世界の中でも優れた憲法があります。基本的人権の尊重という基本原理がある限り、再審法に規定がないからと言って、たび重なる妨害を行った検察の蛮行とそれに追従した東京高裁 第8刑事部の大島隆明裁判長は到底許されません。これを期に再審法改正と、冤罪を作り出した者への罰則規定を真剣に議論すべきです。

袴田さんは死刑囚として48年もの年月を死刑執行の恐怖にさらされ、精神を破壊されてしまいました。事件からすでに56年以上が過ぎ、あまりにも遅すぎたという他ありませんが、拘置所への再収監という最悪の事態は辛うじて免れました。しかし請求人である姉のひで子さんは90歳、巌さんは87歳になり、もはや一刻の猶予もなりません。検察は特別抗告をせずに、再審公判に協力し、一刻も早く無罪を確定させるべきです。

2023年3月13日 冤罪犠牲者の会一同