天竜林業高校調査書改ざん事件~即時抗告棄却決定 批判~是非お読みください。

木魂の怒りⅦ

1.東京高裁は、北川さんの訴えを退け、地裁支部の判断を踏襲した。今年3月31日であった。大学推薦入試に絡む高校の調査書が改ざんされるという犯罪があったのは、事実である。裁判は、天竜林業高校3年N君の調査書が改ざんされた事件(以下N事件と略称)の他に、同じく3年O君の調査書が改ざんされた事件と、N事件に関わってN君の祖父が、北川校長に賄賂を2度計20万円、校長室で渡したと言う事件の三つの事件から成る。

2.改ざんを実行した教員4人(二つの事件)は、改ざん行為を認めている。県教委の聞き取り調査でも、4人は改ざんの事実を認めていた。従って4人については県教委による行政処分が下され、校長は監督責任が問われ、同じく行政処分が下されて、「一件落着」であった筈である。

3.ところが、実行犯の内、少なくとも2人は、「改ざんするよう校長から指示された」と虚言を述べ、県教委は、校長の否認をそのままにして、校長を刑事告発したのである。その違背は厳しく問われねばならないし、県教委高校教育課の汚点として長く刻まれる。

4.県教委の事情聴取と警察による事実調べを元に、両者によって「作られたストーリー」は、地元有力者の子弟だから、校長が教員らに調査書を捏造するように働きかけた というものである。しかも、校長が、その有力者(元市長)から賄賂を受領したというフレームアップも付け加えられた。

5.校長に調査書の改ざんを唆され、指示されたと4人全員に言わせることには、権力は失敗した。しかし、2人の教員は、「作られたストーリー」を忠実に供述し、証言した。

6.裁判は、客観的な証拠がないから、作られたストーリーに基づく「供述調書と証言」だけが証拠である。つまり、改ざんを実行した教員の供述や証言が正しいのかが争われた。

7.即時抗告審は、実は、弁護側と検察側と裁判所による協議(三者協議)が、4年半に一度も開かれなかった。弁護団は再三進行協議を呼びかけたし、検察の意見書を督促してほしいと要望もしていた。しかし裁判所は、全てを無視するという異常な裁判であった。

8.弁護側が提出した新証拠を批判する裁判所の判断の拠り所は、既に地裁支部で審理されている書面ばかりである。牽強付会の説とは、こういう決定書を指す言葉である。

9. 以下、N事件について裁判所の認定がいかに杜撰であり公平を欠くものであったかを述べたい。改ざんの実行者F教諭の供述・証言は、微に入り細を穿つのだが、だから、かえって取調官との共同作業なのではないか との疑いがぬぐえない。

10.その例を示す。
例1.F教諭が、三者面談(生徒・保護者・担任の三者)で、N君の評定平均値が応募資格に満たないことを見過ごしたまま推薦入試の受験を勧めるという初歩的なミスを犯し、それを回復しなければならなかった事情があるところ、北川校長に報告した際、「『何とかならないか』と繰り返し、『おじいちゃんがそこにこだわっているから、何とかならないんですか。』と校長が改ざんを指示したと推認できる。」(10頁)と、裁判所は、F教諭の言葉をそのまま認定している。北川校長は、学校の後援会の会長を務めてもらっている元市長を、部下の教員に対して「おじいちゃん」などと表現することは、金輪際なかったと断言している。繰り返し「おじいちゃん」を持ち出して頼まれごととして押し付ける会話は、断じて北川校長の発想・表現ではありえない。F教諭と警察官との合作との疑いが濃厚である。警察は、この取り調べと並行して、元市長の贈賄事件を捏造中であり、校長への強い依頼を印象付けたい場面であった。

例2.F教諭は、平成18年9月15日付のN君の調査書(改ざん済み)を、誰の指示も相談もなく10月23日付で作成し直し、更にもう一度11月13日付で作成し直していること、その作成し直した理由も単に他の書類と同じ日付に合せるためなど、不合理極まりないことや、9月15日付の調査書を独断で破棄する違法行為を犯していること、上司の指示なしに事務長に公印を押させるなど公文書の書換えに対する規範意識が鈍磨しているとの、北川さんの主張に対して、裁判所は、「確かにFは、調査書を作成し(直した)理由に関し、合理的な説明をしているとは言えないし」(14頁)「日付を変更する必要性があったとは認められない」(14頁)また、「記載内容を独断で変更することに対する抵抗感が薄れていたことは否定できない。」とF教諭の基本姿勢に疑問を呈している。ところが、裁判所は、そのような行動の理由を虚心に探究するのではなく、「しかし、その原因は、(中略)(校長)の指示により、大幅な改ざんをさせられたことにあったといえ、改ざんをすることがなかったならば、Fが(中略)校長の指示がなかったにもかかわらず、独断で調査書の改ざんをしなければならないような動機はなかったと認められる。」(14頁)と、歯切れの悪い、F援護論を展開している。しかし、このような認定にはその理由が説明されておらず、客観的で公平な認定には程遠い議論の組み立てである。(なお、F教諭の行為については、パンフレットに北川さんが書かれた「無実の証し・七つの事実」を参照してくださることをお勧めします。)

11. F教諭の供述・証言が、校長からの強烈な指示であった、という印象を持たせるよう繰り返されたのは、F教諭が刑事訴追を免れるためであったとすれば、虚偽の証言の動機として理解しやすいストーリーである。「改ざんを単独で実行する動機がない」という裁判所のF教諭擁護の認定は、全く事実に反しているのである。F教諭が事件後軽微な行政処分で教育現場に立ち、教職を続けている事実が証明している。

12. 高裁の判断は、ことさら問題を細分化し、局所的対処法で切り抜けようとするものである。F教諭の証言類を、無理に合理化することによって、その犯意を否定するのは、事実認定にさらなる矛盾を抱えることになり、誤判救済の再審法規の趣旨に沿わない結果をもたらすばかりである。「無実を発見する」裁判の原初の姿に立ち返るよう強く要請する。

闘いは、最高裁の法廷に移った。地裁支部・高裁の判断を破棄して、最高裁の自判を求めたい。そうでなければ、せめて、下級審の判断を破棄して地裁へ差戻すよう求めたい。皆様のご支援をたまわりますよう、心からお願いいたします。
2021年5月28日 鈴木 昂