青木恵子さんの損害賠償請求訴訟での不当判決に対する抗議声明

「青木恵子さんの損害賠償請求訴訟での不当判決に対する抗議声明」
 10月16日、大阪高等裁判所 第12民事部の石井寛明裁判長は「本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)自動車に損害賠償を妨害した事実はなくて、民事上の20年の除斥期間が過ぎた」として、大阪地裁に続いて、青木恵子さんの訴えを棄却しました。
 青木さんは再審裁判で無罪となるまで、「自宅の火災はガソリンを屋内駐車場に捲いて放火したもの」と認定されて20年を獄中で過ごしました。しかし、放火実験によって「ガソリン7リットルを撒いて放火すれば大やけどをする」ことなど、実際の状況との明白な違いが明らかとなって無罪判決を受けたのです。
 なぜ裁判の誤りで20年を獄中で過ごした人が、その誤りが明らかになった後に原因となったガソリン漏れの責任を追及して「20年の除斥」が適用されるのでしょうか。
 青木恵子さんの冤罪は、決して警察と検察だけに責任があるのではありません。裁判所にも大きな責任があります。
 そもそも「ガソリン7リットルを屋内駐車場に撒いてターボライターで火を点けた」とする自白を信じて有罪にすることが、私たちには考えられない馬鹿げた判断です。科学的なガソリンの性質を考えれば、すぐに揮発する性質からしてターボライターが発火した瞬間に爆発的に燃え上がることなど、少し社会常識があれば理解できることです。しかし、青木恵子さんを有罪とした裁判所は、この事実を見抜けませんでした。
 青木さんが20年を空費してホンダを訴えられなかった責任は裁判所自身にあります。それなのにぬけぬけと「除斥期間が過ぎたから訴えは無効」だなどと、どこから出て来る言葉なのでしょうか。
 私たち冤罪犠牲者の会は、このような常識外れの判断をする裁判所があるからこそ、警察や検察が非常識な冤罪作りをしているのだと考えています。理解できませんし、許せません。
青木さんを有罪とした刑事裁判と同じに民事裁判も社会常識を欠いています。法律の道理と正義は力の弱い者のためにこそ発揮されるべきではないのでしょうか。
ホンダは、青木さんを有罪として刑事裁判で「ガソリン漏れはない」と証言して有罪判断に加担しました。事実を捻じ曲げたのです。ガソリン漏れを起因とする火災であることを隠蔽したのです。これは作為であり、民事裁判への妨害です。
 このたびの大阪高裁の判決は、青木恵子さんに冤罪と同じ苦痛を背負わせるものであって、どこから考えても、絶対に認められません。そしてホンダは亡くなられた青木さんの娘さん、冤罪で20年も自由を奪われた青木さんに謝罪すべきです。創業者である本田宗一郎さんの理念はどこへ行ったのでしょうか。
 私たちは、青木さんの道理ある主張が最高裁判所で認められるように訴えるとともに、この度の非常識な大阪高裁の判断に強く抗議します。
2020年10月18日 冤罪犠牲者の会